微生物は、わたしたちの生存や暮らしに古くから深く関わってきた身近な存在です。味噌や醤油にお酒、それに納豆にヨーグルトといったおなじみの食品は、発酵食品と呼ばれ微生物の助けがないと作りだすことができません。

微生物の存在が科学的に確認されたのは19世紀の終わり、コッホとパスツールによって現代細菌学の分野が拓かれてからですが、人間はずっと昔から経験的にその存在と性質を知って、実に巧妙にコントロールしながら暮らしに取り入れてきました。もちろん、有益な微生物ばかりではなく、恐ろしい病気の原因になる微生物もたくさんいます。


地球上に生命が発生したのは、約40億年前のことだといわれていますが、この最初の生命体は、太陽エネルギーを利用して光合成をおこなう「光合成細菌」や窒素を取り込んでタンパク質を作る「窒素固定菌」など微生物の元祖のような細菌でした。つまり、微生物はこの地球上の最も古い住人であり、40億年を生き抜いて来た実にしぶとい生命体なのです。
微生物は空気中や食べ物の中など、あらゆる所で活躍しています。中にはとても過酷な環境…たとえば火山の有毒ガスの噴出口、地下深い岩石の中など、常識では生命活動が不可能と思われるような環境でも確認されています。しかし、最大の活躍の場は土です。
肥沃な農地ならば、1gの土の中に数十億の多種多様な微生物がすんでいます。
ウィルスによる伝染病や病原大腸菌による食中毒などは細菌の仕業です。アリゾナ大学の研究チームが行なった最新の調査によると、普通の家庭でも電話の受話器に約3万個、水道の蛇口には約2万個もの雑菌がいることが報告されています。また、胎児の腸内には微生物が存在しないのに、生まれる時、産道を通りながらお母さんから微生物を引継ぐといわれるほど、わたしたちはおびただしい数の微生物に囲まれ、侵入されながら生きています。
それでもすぐに病気にならないのは、体に備わる免疫力と微生物同士が絶妙にバランスを保っている環境があるからです。ひとたびこのバランスが崩れると、病原菌などの悪玉菌が侵入し、発病したり命をおびやかされたりするのです。
土にも全く同様にこの理由が当てはまります。
土の中の有機物の量には限界があり、必然的に微生物の量にも限界があります。したがって、土の中が微生物で満たされバランスが保たれていれば、後から侵入した微生物はすみついて増えることができない仕組みになっています。善玉菌で満たされいる環境があれば、病原菌などの悪玉菌の侵入を防ぐことができるのです。
動物も植物も栄養分を無機質で吸収します。動物は有機物を食べ、消化管で無機質に分解して吸収します。この分解過程の主役が微生物です。
消化管を持たない植物にとって、まさに「土」が消化管そのものといえます。
土の環境が壊れることは微生物の活動を鈍らせ、必要な栄養分が無機質に分解されない困った事態になるのです。わたしたちがお腹をこわしたのと同じです。
こんな時化学肥料は効果的です。
栄養分はすでに無機質になっているので、微生物の働きは不要です。しかし微生物はどうでしょう。化学肥料には土の環境を整える力はありませんから、微生物はエサがなくて弱る一方です。
結局、化学肥料は点滴のような一過性の栄養剤なのです。
わたしたちが点滴だけで健康を維持することが不可能なように、土の健康を維持するには、土の環境そのものを整える必要があるのです。
土の中の微生物の密度には限界があります。
したがって、土の中が微生物で満たされバランスが保たれていれば、後から侵入した微生物がすみついて増えることはできない仕組みになっています。
善玉菌で満たされていれば、病原菌などの悪玉菌の侵入を防ぐ効果を発揮できるのです。
微生物は空気中や食べ物の中、それにわたしたちの腸内でも活躍していますが、本来の故郷は土です。良い土にはたくさんの微生物がすんでいますし、痩せた土では例外なく微生物は数が少なく、活動も弱っています。