

ある日、野菜売り場で手にした深く鮮やかな茄子紺色のナス。つやつや輝いていました。出荷元を見ると「コフナ有機農法研究会群馬」とあり、パッケージには”コフナ農法普及協議会認定”のマークや、”コフナ農法”についての簡単な説明。コフナ農法って何だろう?出会った言葉を追いかけて、群馬県佐波郡赤堀町を訪ねました。

訪ねたナスの圃場は、大澤克己さん、みえ子さん夫妻が丹精するハウス。所々に、紫色のナスの花がパッと大きく開いているのがとても印象的でした。
コフナ農法で栽培をしていて、土壌のチカラを実感する一つが、この花の違いだと大澤さん。”長花柱花”といって、めしべが長く、しっかりと大きな花がよく開いて、実を結ぶとはらりと散る・・。「いい花が咲くと、その木のチカラを感じ、いい実りの期待ができる。それから成長点の色の鮮々しさを見るとやはり土のチカラがわかる」とか。
コフナ農法とは、農業大国フランスのパスツール研究所で開発された連鎖障害の軽減、土づくりのための微生物資材”コフナ”を使った農法でした。コフナは土壌に必要な有益微生物100種超を有機質100%で培養したもので、1g中に約27億匹超という微生物が生きています。作物が豊かに実るためには、微生物が分解する栄養分が不可欠。そして、病原体など悪い菌類の侵入や過剰繁殖を防ぐためにも、土壌中の微生物(植物のために働く菌類)のバランスが保たれ、活動していることが大切なのです。
俗に”痩せた土”といわれる土壌は微生物が少なく、が微生物よってに分解されません(無機質でないと作物は吸収できない)。化学肥料<@>は一時的な土への栄養補給にはなりますが、微生物は活動の場がなく、ますます弱まり、土壌が痩せ、病気にかかりやすくなります。
自然本来は、土と土壌中の生物(ミミズなど)と微生物(菌類)と動植物が共存する環の中で互いの生命を育んでいるので、農業のためのよい土づくりとは、自然本来の環を人力で手助けすること。そうした研究から生まれた資材がコフナなのでした。
大澤さんは高校卒業後、いったんはまったく異業種に勤め、今から15年程前に就農しました。とはいえ米麦や養蚕、露地での野菜栽培などを継承するのは不安定と考え、ナスのハウス栽培に取り組んだのだそうです。しかし、その年の実りは期待を裏切る結果に終わったといいます。
「何の知識もなくはじめたので、今にして思えば当然の結果ですが・・(苦笑)高校時代から農業は嫌いじゃないし、後々は就農と考えてきたのが、現実を目の当たりにして途方に暮れた思いでした。何がいけないんだろう・・と考えていたとき、”土が大事。地力をあげなければ実りはない”とコフナを勧められて導入したら目に見えてよかった。だから、そのままコフナを使い続けているんです」とか。

当初300坪だったハウスが現在では900坪になり、3〜11月中旬までの長い期間安定出荷(7月下旬から8月上旬は休む)をしています。「霜が降りなきゃ通年出荷できるかもしれないのに」と笑うほど、圃場が豊かでした。

大澤さんのナス栽培は、暮れからの定植準備で1年がスタートします。圃場にコフナと元肥を入れて、ますは土を肥やします。1月中旬、別の場所で育苗し、20p程度に育った苗に一番花が咲く頃、定植(育苗は、9月から育てた穂木を11月に接木したもの)。寒さを嫌うナスのために苗を覆うトンネルをかぶせます(ハウス内で、2重のハウス状態。この霜対策は4月中旬まで)。3月下旬、受粉を手伝うマルハナバチを放し、また以後定期的に有機液肥を追肥して微生物の活性を保ちます。
木が80p程度に育ち、枝が伸びてきたら、いい枝を4本残し(4本仕立て)、高さ2m弱まで伸ばします。収穫は3月中旬から始まり、更新栽培といって同じ木で春秋2回の収穫をします。
収穫するときは、ナスだけを切り取るのではなく、ナスが実った枝ごと切ります。すると少し幹に近い所の枝に花が咲き、実ります。同じ節で2、3度と実るように仕立てるので、収穫期が長いのです。
出荷のピークは5、6月(約30〜40箱/日)と10月(約20箱/日)。てのひらで包むように握って、ガクが出る程度に育つとだいたい80g程度。これを5本で1袋400g詰にして出荷します(20袋=1箱)。大澤さんほか、近隣でコフナ農法を実践する生産者の団体・コフナ有機農法研究会群馬は独自で集出荷を行っていて(東京・東京神田青果に出荷)、パッケージには団体名と、所属するコフナ農法普及協議会の認定マークがついています。
うねの土はふかふかと柔らかく、根が木の周囲半径2〜3mまでのびのびと伸びているとか。つまり地中ではハウスの枠を超えて生長しているということ。幹も立派なナスの木を見て、”大地の恵み”だというのを目の当たりにした思いでした。

メリットとして、「冷害・猛暑に強い」、「連鎖障害予防」、「収穫した作物の味、日持ちがよい」、「農薬や化学肥料を削減」、「環境を汚染しない」、「土壌本来の生物体系を壊さない」と注目されている。
コフナ有機農法研究会群馬が出荷する野菜を多く起用しているホテルチェーンのシェフの談では「コフナ農法で栽培された野菜は日持ちがよく、調理時間が短い(早く火が通る)」のだという。

コフナは、微生物が”寝ている”ギリギリの乾燥状態で保管されていて。圃場に投入すると、水と地温によって微生物が目覚め、活性する。そもそもコフナ有機農法研究会群馬発足は、隣接の東村で農業資材などを商う株式会社川村商店の社長・川村浩史さんが25年程前、地力の回復策としてコフナ農法導入を近隣の生産者に呼びかけたことにはじまる。
時代はまだ”無科学肥料栽培”などに注目していなかった頃に、先見の明だ。「はじめ、実験的に友人の圃場でコフナ農法により大根をつくってもらいました。収品率、収量が上がり、作物の旨味が増したと感じたので、地域の農業の将来を考えこれに賭けてみようと思った」と川村さん。コフナ有機農法研究会群馬の小林恵一さんは20年程前(先代より)コフナ農法を導入。「会では、コストをかけてもコフナを使って安全な、選ばれる野菜を栽培しようと努め、ほかにトウモロコシ、キュウリ、トマト、ホウレンソウ、ブロッコリーなどを出荷しています」と話す。
現在、会員は25名。同会のほか、全国のコフナ農法に従事する生産者や団体等が参加しているのがコフナ農法普及協議会(事務局:ニチモウ株式会社内)。